うちのネコちゃん、食べるときにやたら口を気にしておるなぁ。
うちの子は最近、匂いを嗅ぎに来たりして食べたそうだけど、食べ出したらすぐにやめちゃうわ。
ペースト状のフードならたべるけど、ドライフードは食べないなぁ。ドライフード嫌いなのかなぁ?
このようにネコさんの飼い主さんの中には、お口の症状で悩まれたことがある方も居られるのではないでしょうか?
それはひょっとすると歯肉炎や口内炎、口内潰瘍が原因かもしれません。
人間でも小さな口内炎ができることで食事がつらくなる経験は誰しもあると思います。しかしながらネコちゃんの場合は炎症の範囲や痛みの程度は、人のそれとは比べものになりません。
実際の診療時の問診では、ドライフードを食べるだけで”ギャッ”と痛がってすぐに食べるのをやめてしまう、しきりに口を前肢で掻く、涎がひどく多くて臭いがキツいというようなことを仰る飼い主さんが多いです。
症状
程度や範囲に差はあるものの、身体検査では歯の付け根の部位の歯肉炎、舌の奥や、舌の横から喉にかけて炎症が認められます。舌に潰瘍が認められる場合もあります。
ここで無理に口を大きく掴んで開こうなどとしてはいけません。ただでさえ痛みが強いのにそこを触ることでネコちゃんは激オコになって人間不信になりかねません。
なるべく優しく口内の状態確認(炎症の程度、歯石沈着や歯に開いた穴などの有無)をして、次に確認するのは全身状態です。
食べられないことでどの程度消耗しているのか、脱水がどの程度なのかなどを入念に身体検査などの必要な検査で評価していきます。
検査
歯肉炎、口内炎、口内潰瘍が単独で発生した訳ではなく、悪化する根本的な原因が存在する場合があります。
- 腎不全
- 糖尿病
- 猫エイズ/猫白血病への感染
- カリシウイルス感染
- ヘルペスウイルス感染
血液検査や画像検査などを駆使して、これらの全身性疾患や感染症の有無を確認します。
腎不全や糖尿病は中年齢以降のネコちゃんでは発生率が上昇するので警戒する必要があり、猫エイズ/猫白血病、カリシウイルス感染、ヘルペスウイルス感染は特に外に出ることのあるネコちゃんでは警戒しなければなりません。
治療
上記の歯肉炎、口内炎、口内潰瘍を悪化させる根本的な原因が存在し、その治療方法が存在する場合はそちらを並行して実施します。
腎不全に対しては点滴治療や投薬治療、フードの変更などを実施します。
糖尿病では体重を落としたり、インスリン治療を実施します。
歯肉炎、口内炎、口内潰瘍に対する治療は、投薬による内科的治療(ステロイド、抗生物質、痛み止め、インターフェロン)、歯石除去や抜歯などの外科的治療があります。
内科的治療、特にステロイドの投薬は効果が出るのが速く、診療当日あるいは翌日には少しずつ食べ出すということが多いです。抗生物質は細菌感染や真菌感染が疑われる場合は追加的に使用します。
投薬する際に生じる選択肢は長期に効果のある注射にするのか、飲み薬が可能な状態なら飲み薬を処方するのかということです。
長期に効果のある注射では、飲み薬を飲まなくてもよいというメリットがあります。デメリットとしては2週間程度効いているので、途中で薬用量を調節することが出来ないということです。
飲み薬では、ご自宅で薬を飲ませなければならないという飼い主さんにとっての大きなハードルがありますが、口の痛みの程度によって薬用量を調整できるというメリットがあります。
ステロイドによる長期管理のデメリットはその副作用です。糖尿病のリスクや肝臓への負担、また身体の免疫に異常がある場合(猫エイズや猫白血病が感染している場合、糖尿病になってしまっている場合など)は状態が悪化する可能性もあります。
ステロイドや抗生物質などの投薬でも痛みのコントロールができない場合は、他の鎮痛剤やインターフェロン、免疫抑制剤を追加的に使用する場合があります。
また十分に飲食ができていない場合は、点滴治療も並行して実施して水分、ミネラル、ビタミンなどを補給して全身状態を改善させることも忘れてはいけません。
外科的治療である歯石の除去や抜歯は、歯肉炎や口内炎、口内潰瘍が歯石への過剰な免疫反応が原因と考えられるため、悪化させる根本的な原因が存在しない場合には現時点では最も優れた治療とされています。多くのネコちゃんで投薬の種類や量を減らすことができます。また口内に腫瘤病変(できもの)ができている場合もあり、その場合は切除して組織検査に提出して腫瘍でないのか確認してもらう必要があります。
外科的治療のデメリットは麻酔のリスクと処置に関連したコストでしょう。ネコちゃんがすでにかなり高齢だったり、根本的な悪化原因があるような状態では麻酔のリスクは高まりますし、高額医療になる可能性が高いので、獣医師さんとよくご相談して、処置のメリット・デメリットを十分に把握して、納得の上で実施する必要があります。
費用の目安
費用については、自由診療であり、動物病院によって異なりますが、私個人の感覚的な費用を記載します。実際には担当の獣医師さんとよくご相談なさってください。
- 初期費用
- 血液検査:1万~1万5千円ぐらい
- 猫エイズ/猫白血病検査:5千円ぐらい
- レントゲン検査:6千円ぐらい
- ステロイド注射:2千5百円ぐらい
- 抗生物質注射:2千~3千円ぐらい
- トータル:2万5千~3万円ぐらい
- 抜歯処置
- 全身麻酔:8千円ぐらい
- 全臼歯抜歯:6万円ぐらい
- スケーリング(歯のクリーニング):1万円ぐらい
- 歯科レントゲン:6千円ぐらい
- 入院費用:1日辺り1万円ぐらい
- 入院から退院まで:10万円ぐらい
- ネコちゃんが食べたいけど食べられない、口を気にする、涎が多いなどあれば歯肉炎、口内炎、口内潰瘍を疑う
- 根本的な原因があれば同時に治療する
- 必要であれば点滴治療などの補助的治療も実施する
- 内科的治療・外科的治療があるのでメリット・デメリットを獣医師さんとよく相談して決める
食べたいのに食べられないというのは非常につらいことだと思います。手を尽くしてもなかなか状態を改善させることができないネコちゃんもいます。
日々の診療で見落としはないのか、ネコちゃんにとって最良な選択肢を提示できているのか、これからも妥協せずに取り組んでいきます。
現時点の知識・経験を記載した記事ですので、新しい知見があったり、誤りのある場合は修正を加えていく予定です。よろしくお願いいたします。