猫の慢性腎不全とは?症状・検査・治療について獣医師が解説

うちのネコちゃん、最近少しずつ食欲が落ちているみたい。体重も減ったし、吐く回数も増えているわ。やっぱり歳だからかしら?
確かに年齢を経ると若いときよりも食欲・元気が落ちてきますね。
でも調べてみるとできることがあるかもしれませんよ。
皆さん、こんにちは。
ネコちゃんを飼われている方なら、一度は「腎不全」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
慢性腎不全は高齢のネコちゃんで非常によくみられる病気であり、日々の診療でも遭遇する機会の多い疾患の一つです。
ネコちゃんは他の動物と比較して慢性腎不全に罹りやすいと言われていますが、その理由については現在でも完全には分かっていません。
一説には、もともと砂漠で暮らしていた動物であり、水分を保持するために尿を濃縮する能力が発達したことが関係しているのではないかと考えられています。
また、日々の診療の中で感じるのは、ネコちゃんは膀胱炎や排尿障害、尿管結石などの尿路疾患も少なくないということです。そのような疾患が腎臓に負担をかけやすい背景になっている可能性もあるのではないかと私は考えています。
今回は、そんなネコちゃんの慢性腎不全について、症状や検査、治療について解説していこうと思います。
慢性腎不全の症状

慢性腎不全の初期には、腎臓の予備能力によって失われた機能を補うことができるため、目立った症状が現れないことも少なくありません。
そのため、健康診断の血液検査や尿検査で偶然発見されることもあります。
腎臓は老廃物の排泄や体内の水分・電解質の調整を行う重要な臓器です。
慢性腎不全が進行すると、体内に老廃物が蓄積したり脱水が進行したりすることで、
- 食欲が落ちる
- 元気がなくなる
- 吐くことが増える
- 歯肉炎や口内炎が悪化する
- 口臭が強くなる
- 尿量が増える
といった症状がみられるようになります。
ただし、これらの症状は腎不全だけにみられるものではありません。
「高齢だから元気がないのかな?」
「口が臭いのは歯周病のせいかな?」
「尿が多いから糖尿病かもしれない」
このように考えていたら、実は慢性腎不全が原因だったということもあります。
動物病院での検査

調子の悪いネコちゃんが動物病院へ連れて行かれると、年齢や病歴、身体検査の結果から、獣医師は『慢性腎不全の可能性もあるな』と考え、血液検査や尿検査、レントゲン検査や腹部超音波検査をお勧めするでしょう。
機能不全に陥った腎臓の割合に応じて、様々な異常値が生じます。
- 残りの腎機能が1/3を切ると、尿の濃縮能力が落ち始めます(尿比重が低くなります)。
- 残りの腎機能が1/4を切ると、血液検査で腎臓系の数値が上昇し始めます。
従って、腎臓の数値の上昇が軽度であっても、腎臓系の数値が上昇した時点で腎機能は1/4を切っているわけですから、決して軽症ということではありません。
また腎不全のネコちゃんでは血圧が上昇する可能性があるため、可能な場合は血圧の測定を実施します(シャイなネコちゃんや、アグレッシブなネコちゃんでは動物病院内での血圧測定は至難の業です)。
レントゲン検査や腹部超音波検査では腎臓の萎縮や、腫瘍性病変などの形態的異常が認められるかもしれません。
得られた検査結果から、獣医師は腎不全を以下の基準に基づいて分類します。
| ステージⅠ | ステージⅡ | ステージⅢ | ステージⅣ | |
| クレアチニン(mg/dl) | <1.6 | 1.6-2.8 | 2.9-5.0 | >5.0 |
| SDMA(ug/dl) | <18 | 18-25 | 26-38 | >38 |
| 尿蛋白クレアチニン比 | 蛋白尿ではない:0.2 境界的な蛋白尿:0.2~0.4 蛋白尿:>0.4 |
| 収縮期血圧(mmHg) | 正常圧:<140 前高血圧:140~159 高血圧:160~179 重度高血圧:>180 |
※この表の分類は一時的な脱水を治療して、安定した値で評価します(脱水があると、クレアチニンやSDMAは上昇します)。
これらに基づいて、行うべき治療を判断します。
腎不全の分類は、脱水などがなく安定した状態で、問診、身体検査、血液検査・尿検査・血圧測定などの結果を総合的に判断して行う。
慢性腎不全の治療

治療は重症度や生じた症状によって実施され、投薬治療、点滴治療、療法食で構成されます。
投薬治療では、以下のような薬剤が処方されます。処方された薬剤名が分かっていれば、どのような目的で使われている薬なのかを理解する参考になると思います。
- 腎血流の確保(腎臓の血管を拡張させる薬)
- ACE阻害剤:アンギオテンシン変換酵素阻害剤。体内の血圧を上げる物質の働きを抑えることで血圧を下げる薬。
- エナラプリル(エナカルド)
- アラセプリル(アピナック)
- ベナゼプリル(ベナゼハート)
- テモカプリル(エースワーカー)
- これらの違いは腎臓からの排泄と肝臓を介した排泄の割合の違いです。
- ARB:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬。体内の血圧を上げる物質の働きを抑えることで血圧を下げる薬。
- テルミサルタン
- ACE阻害剤:アンギオテンシン変換酵素阻害剤。体内の血圧を上げる物質の働きを抑えることで血圧を下げる薬。
- 吸着剤(医療用活性炭やリンの吸着剤)
- 医療用活性炭:老廃物の消化管からの排泄を促す
- コバルジン
- ネフガード
- イパキチン(活性炭ではありません)
- リン吸着剤:リンの消化管からの排泄を促す
- レンジアレン
- イパキチン
- 医療用活性炭:老廃物の消化管からの排泄を促す
- 血圧降下剤(高血圧が併発している場合)
- アムロジピン
- 胃酸分泌抑制剤(尿毒症性胃腸炎を防ぐ目的です)
- ファモチジン
- 消化管粘膜保護剤
- スクラルファート
を必要に応じて処方します。
慢性腎不全では尿の濃縮能力が低下し、身体が脱水気味でも尿が多く排出されるため脱水傾向に陥りやすく、静脈点滴や皮下点滴によって水分を補うことで全身状態が改善する可能性があります。
点滴治療の頻度は、点滴治療後の全身状態が改善する場合は積極的に実施し(1~3日ごとに実施)、長期にわたる場合は自宅で皮下点滴を実施することもご提案します。
点滴治療に関する記事はこちら
療法食は、多くの製薬会社がフードの蛋白質やリンを調整した療法食を提供しており、これを食べさせることにより、腎不全の進行を遅らせることができます。
腎不全を安定化させることができれば、病態に応じて定期的なモニターを実施し、腎臓系の数値や全身状態の悪化がないか、貧血が生じていないかなどの確認を実施します。
貧血は腎不全に伴って生じる可能性があり、原因としては
- 血液中の老廃物によって赤血球の寿命が短くなる
- 腎不全からくる食欲不振によって、鉄分やビタミンなどの造血のための栄養素が不足する
- 腎臓からの造血ホルモンの分泌が低下する
といったことが挙げられます。ヘマトクリット値が20%を切るような状態であれば、鉄分の補給やビタミンの補給、造血ホルモンの注射が必要になります。
投薬治療は、優先順位をつけてできるところから!
療法食は、いくつかのメーカーがあるので、好む物を探す!
点滴治療は、元気・食欲の改善がある場合は是非!自宅での点滴も有用!
費用の目安 About costs
費用面は自由診療ですので、動物病院によって異なるのですが、私個人の感覚的な目安を記載させていただきます。詳しくは担当の獣医師さんとよくご相談ください。
- 初期評価
- 血液検査:1万~1万五千円ぐらい
- レントゲン検査や腹部超音波検査:1万円ぐらい
- 尿検査:2千円ぐらい
- 皮下点滴:3千~4千円ぐらい
- 投薬(最初の一週間ほど):2千~3千円ぐらい
- トータルで2万5千~3万円ぐらいでしょうか。
- 維持療法
- 検診としての検査:7千~1万円ぐらい
- 点滴通院:一回あたり4千円ぐらい
- 内服(一ヶ月分ほど):5千~1万円ぐらい
- 自宅で点滴をする場合は自宅点滴セット:月1万~2万円ぐらい
- 1ヶ月あたりの費用は、点滴通院をどの程度の頻度で実施するのかによっても異なります。
慢性腎不全は長期的な管理が必要になる病気です。
そのため、治療方針を考える際には、病気の状態だけでなく、通院の負担やご家庭で継続できる範囲も考慮することが大切です。
ネコちゃんは慢性腎不全にかかりやすい
定期健診を実施したり、調子が悪い場合は早めに動物病院へ行き、なるべく早く慢性腎不全を見つける
慢性腎不全と診断されたら投薬治療、点滴治療、療法食によって継続的な治療を実施する
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ネコちゃんの慢性腎不全は本当に多く、この記事が慢性腎不全と向き合うネコちゃんの飼い主さんに少しでもお役に立てればと思います。
この記事は今までの経験・知識に基づいて書かれており、誤りがある場合やアップデートがある場合は随時更新させていただきます。よろしくお願いいたします。



