うちのダックスちゃん、朝は普通だったのに夜になって急に立てなくなっているわ。
腰が痛そうで元気もないわ。すぐに動物病院へ連れて行きましょう!
ワンちゃん、特にミニチュアダックスさんを飼われている方の中には、こういった急な疼痛や起立困難・歩行困難に直面する方も居られるのではないでしょうか?
今日は特にミニチュアダックスさんに多い、椎間板ヘルニアについて書いていこうと思います。
椎間板ヘルニアって何ですか?
椎間板は背骨の間にある座布団みたいなものです。
線維輪と呼ばれる皮の部分と、髄核と呼ばれる柔らかい中心の部分があります。
椎間板ヘルニアはこの椎間板が脊髄を圧迫することで生じる病態のことを言います。
脊髄は脳と身体を繋ぐ電線の様なものなので、脊髄が圧迫されれば、軽症の場合は疼痛のみが生じ、重症になると歩行ができなくなります。
椎間板ヘルニアには以下のタイプがあります。
ハンセンⅠ型 | ミニチュアダックスフントなどの軟骨異栄養性犬種で生じる、線維輪が破れて髄核が脱出する。急性発症するタイプ。 |
ハンセンⅡ型 | 中年齢から高齢にかけて発生が多く、線維輪は破れずに徐々に脊髄を圧迫するタイプ。 |
症状および検査
病院に来られる理由は、痛みでじっとしている、背中を丸めてあまり動かないといった軽症な状態から、ふらつきながら歩いている、あるいは歩けないといった重症まで様々です。
よくあるケースとしては、ソファーなどから飛び降りて『ギャン』と鳴いて、それから急に様子がおかしい、といったことを仰られる方が多いです。
グレードⅠ | 背部の痛みのみ。運動機能には問題が無い。 |
グレードⅡ | 痛みに加えてふらつきが生じる。 |
グレードⅢ | 歩けないが、後肢は動く。 |
グレードⅣ | 動けないが、痛みは感じることができる。 |
グレードⅤ | 動けずに、痛みも感じない。 |
これはいくつかある胸腰部の椎間板ヘルニアの重症度分類の一つを簡単に示した物です。
この分類は治療方法を飼い主さんとご相談する際に非常に重要になってきます。
従って、この分類を神経学的検査を用いて、非常に慎重に判断する必要があります。
神経学的検査では、神経学的疾患が存在するのか、存在する場合はどこに存在するのかを、身体を触ったり、眼に光を当てたり、匂いを嗅がせてみたりして動物の反応で評価します。
また、他の全身性疾患が存在し、それが症状に影響する場合があります。
- 避妊手術をしていない女の子では卵巣や子宮の疾患
- 去勢手術をしていない男の子では前立腺の疾患
- 中年齢以降では糖尿病などの内分泌疾患、腎不全、肝疾患、心疾患、腫瘍性の疾患など
これらも神経学的状態に影響したり、治療方法に影響を与える可能性が高いので、見逃さないために、血液検査やレントゲン検査、超音波検査などで慎重に確認していく必要があります。
治療方法について
椎間板ヘルニア以外の疾患が存在する場合は、そちらの治療についても飼い主さんと相談する必要があります。
椎間板ヘルニア単独の問題で話すと、上記の重症度グレードでその治療方法が大きく変わってきます。
グレードⅠからグレードⅢでは、投薬・レーザー治療・安静といった内科的治療でも十分な効果が得られることが多いです。
投薬は抗炎症量のステロイド(賛否両論あるようですが)を中心として処方します。
レーザー治療は局所の血流を良くすることで脊髄の疼痛を緩和したり、回復を促進します。
安静は、約一ヶ月を目安に実施します。狭いサークルやケージで生活してもらいます。
グレードⅣおよびグレードⅤになってくると、なるべく早い段階での手術が必要になってきます。
特にグレードⅤの場合は発症から48時間以内に手術をしないとその予後に影響が出ると言われていました。現在では厳密にいつ発症したのか定かではない可能性が高いことと、発症から48時間以上経っていても回復が見込めるといった情報もあるので、発症から48時間以上経っていてもあきらめずになるだけ早く手術するほうがいいとされています。
手術方法は背骨に穴を開けて、その穴から椎間板物質を摘出するというものです。このときに多少は脊髄を触る可能性があるので、術後一過性の神経症状の悪化が認められることがあります。
低グレードで手術を受けない場合や、高グレードで手術を受けた後にはリハビリも大きな役割を果たします。関節を柔らかく保ったり、筋力を落とさずに回復を早める効果があります。
手術後に退院できるポイントとしては排尿が自分でできるかどうかがあります。排尿できない場合は人が膀胱を圧迫することで排尿を補助しなければなりません。また排尿を促進する内服を処方することもあります。
術後は術後一ヶ月の回復が認められるかを目安に、予後を慎重に判断していきます。
その他にも幹細胞を病変部位へ移植する治療が行われている動物病院もあり、効果的な報告もされているようです。ただし、特殊な技術なので、全ての動物病院で実施可能な訳ではありません。
特殊な例として、『脊髄軟化症』という病態があります。これは障害を受けた脊髄が頭側方向と尾側方向へどんどん壊死していくという恐ろしい病態です。特に頭側方向へ壊死が進むと、生命維持の中枢である脳幹が壊死して呼吸ができなくなり、最終的には死に至ります。
現時点ではこの『脊髄軟化症』であれば、残念ながら有効な治療方法はありません。
どの治療方法を受けるにしても、もちろん標準的なお勧めはありますが、軽症だけれども痛みを早く取るために手術を受けたい、あるいは重症だけれども手術を受けさせるコストが捻出できないなど、疾患に対する個々の向き合い方があると思います。
疑問に思うことは獣医師とよく相談して、納得した上で検査・治療を受けるようにしていただければと思います。
費用の目安
費用については、自由診療であるため、動物病院によって異なりますが、私個人の感覚的な費用を記載します。あくまでも参考程度にしていただき、詳しい費用面の話は担当の獣医さんとよくご相談ください。
- 初期費用
- 血液検査:1万~1万5千円ぐらい
- レントゲン検査:5千円ぐらい
- 神経検査:5千円ぐらい
- 投薬(1週間ぐらい):2千円ぐらい
- トータルで2万~2万5千円ぐらい
- CTやMRIから手術まで
- 麻酔費用:1万円ぐらい
- CT:8万円ぐらい
- MRI:8万円ぐらい
- 手術:10万円ぐらい
- 入院費用:1日辺り1万~1万5千円ぐらい
- 入院から退院まで:20万~25万円ぐらい
今回の内容も、経験や知識を元にまとめて記載しましたが、不足した部分、不適切な部分が含まれる可能性があります。訂正やアップデートがあれば随時更新していきますのでよろしくお願いいたします。