今回は、血液検査で比較的よく遭遇する貧血について、まとめていこうと思います。
症状
貧血と一言に言っても、原因や経過によって症状は様々です。
身体検査では粘膜色(歯肉や口唇の色)が薄い、食欲が落ちている、元気がない、黄疸が認められる場合もあります。
また、同じ貧血の程度であっても、急な事故などで急速に失血した場合は、徐々に貧血が進行していく場合よりも、貧血の身体への影響が大きく、全身状態が悪くなります。
感覚的な印象で申し上げると、HCT(ヘマトクリット値)≓PCV(血球容積)が20%程度から、食欲などへの全身性の影響が出てくるように感じます。
貧血のつらさを決める要因
- HCTの値
- 経過(急性か慢性か)
再生性か非再生性か
貧血が認められた場合、まずは再生性か非再生性かに貧血を分類していきます。
血液塗抹検査(血液をスライドグラスに塗って染色して観察する検査)で以下の項目をチェックします。
- 網状赤血球(若い赤血球)の数
- 有核赤血球(若い赤血球)の有無
- 赤血球の大小不同の有無(赤血球の大きさがばらばらということです)
- 異染性の有無(染色をしたときに違った染まり方をする赤血球があるかどうか)
これらの項目が陽性であれば、再生性があると判断できます。
再生性と判断した場合は貧血の原因は、出血もしくは溶血ということになります。
出血はどこかから出血しているということです。外傷によって体表から出血している場合から、消化管出血や血尿、口腔内の出血、またノミやマダニによる吸血も一種の出血ととらえることができるでしょう。
溶血はタマネギ中毒、赤血球に寄生する寄生虫感染、低リン血症による溶血、免疫介在性の溶血などの原因が考えられます。
逆にこれらが無い場合は身体が貧血に対して反応できない、もしくは反応途中であることを示し、非再生性と判断します。
- 出血や溶血が原因だが、身体がまだ反応できていない場合
- 造血のための材料が不足している場合
- 腎不全からくる貧血
- 骨髄に何か問題が生じている場合
貧血の分類
- 再生性:出血か溶血
- 非再生性:腎不全や鉄欠乏、骨髄疾患など多岐にわたる
治療方法
再生性貧血の場合は、出血であれば出血の元を断ちます。すなわち、止血をしたり、ノミ・ダニの駆除を実施するなどです。
また溶血であれば、
- 赤血球に寄生する寄生虫が原因であればそれに対する抗生物質の使用
- 自己免疫性の溶血であれば、高用量のプレドニゾロンや他の免疫抑制剤の使用
- タマネギ中毒などであれば原因物質が体内から排泄され、貧血が治まるまでの支持療法
などを実施します。
非再生性貧血の場合
- 腎不全が原因の場合、造血ホルモンの補給、鉄分やビタミンの補給
- 鉄欠乏性貧血の場合は鉄分やビタミンの補給
などを実施します。
また、再生性であれ非再生性であれ、重度の貧血の場合は輸血を考慮します。
この際に再生性であれば、貧血の原因が解消し、貧血の程度が改善すれば心配はいらないでしょう。
非再生性の場合は、原因が解消しない場合、貧血の改善は一時的になってしまい、再度貧血が重症化する可能性があります。
また、低下した酸素運搬能力を補うために酸素室に入ることも有効でしょう。
治療
- 原因にかかわらず、重症の場合は輸血の実施や酸素室の利用を検討する
- 根本的な原因が対処されないと一時しのぎになる可能性がある
費用の目安
貧血の場合に、診断・治療にかかる費用はピンからキリまであると思います。ここでは様々なことを想定した私個人の感覚的な費用をご紹介します。
実際の費用についてはかかりつけの動物病院さんで確認していただければと思います。
- 初期費用(体調不良の原因が貧血と分かるまでに必要な検査):3万円ぐらい
- 入院治療の場合(一週間程度の入院):入院から退院まで20万~30万円ぐらい(酸素室の利用や、食欲不振の支持療法としての点滴入院、必要な検査や治療を含めて)
特に非再生性の場合は手を尽くしても、予後が悪い場合がありますので、それも含めてかかりつけの獣医師さんとよくご相談し、納得のいく診療を受けるようにしていただければと思います。